西の彗星-生誕の物語- 07 06←NEXT→08第2章 仲間となった桃色の髪をした美しいエルフの名前はマーラ=アラシ二ア
錬金術を使うモリ―と同い年ほどのちょんまげ少女はダンゴ=ラーメン
そして…
「ムキュアア!!(ビールだっつってんだろおお!!)」
「フゥー!!(ジョッキに注いでやるにゃあああ!!!)」
「だぁもう、うるせぇっつぅ!?」
勢い良くつっこもうとしたレイフォンだったが
いきなり胸を抱え、うめき声をあげ、倒れてしまった
旅が四人と二匹になって三週間目のことだった
笑っていたミシェルやダンゴたちが目を丸くする
「旦那?」
「レイフォン!」
モリーとミシェルがすかさず支える
「……っぅ…」
あまりの痛みに声もでないようだ。
レイフォンの左頬に入れ墨のような樹枝の模様が浮かび上がり、赤くあやしく光る
「黒魔法の手のものですかね」
ミシェルがつぶやく、ダンゴは心配そうにレイフォンを見つめたままビールを撫でている
「こんなの…見たことない」
錬金術を使うダンゴだが、そのダンゴさえも見たことがないようだった
「がぁっ!!」
レイフォンの体が大きく波打つ。
「痛みが増しているようです」
マーラは今にも泣きそうにつぶやき、あたりを見回した
そこで、マーラのエルフ特有の耳が動く
「何か近付いてきます」
モリーも耳を澄ましてみるが何も聞こえない
「何も聞こえな…」
「走り出した、こちらに気がついたようです。数は30~40ってところ」
「だから何にも聞こえないにゃぁ」
モリーはマーラを見上げて首に巻いてある赤いスカーフを握りしめた
「マーラの嗅覚、聴覚、視力は抜群だよ。」
ダンゴがモリーの後ろに立って言う。
「でも何にも聞こえないし見えな…あ!」
黒い集団だった。先頭に見えるのはモリーに少し見覚えのある顔だった
「お姉ちゃんの…?」
大きくはえた犬耳にふさふさのしっぽ
「わんこにゃあ…」
どんどん近付くにつれてその見覚えのある狼の女が焦っていることに気がついた
そんなに息をはずませないはずのトイラベルの彼女が息をはずませて走っている
「……レイフォン!」
第一声はこれ。レイフォンの体を支えていたミシェルを押しのけレイフォンの体を横にする
「…ちっ…ロ―リフ!」
「はい!」
「禁呪の一時回復術は覚えたか?」
「はい、ですが…」
「いい、やれ。」
「…はい」
その様子にマーラやダンゴは「何をする!」と牙をむいたがすぐにミシェルが止め、
ボーっとして三人と二匹は眺めているだけだった。
レイフォンがいつも胸に巻いている包帯をほどき始める女狼
ほどいた先には左頬に出ていた樹枝模様の禁呪がレイフォンの胸を張り廻っていた
痛みで気を失っているレイフォンにロ―リフと呼ばれた男オオカミは不思議な術をレイフォンの胸に向け、出来上がった光を押し入れていた
すると、光っていた樹枝模様は黒くなり、レイフォンの体も落ち着いてきた。
女狼は息をゆっくりはくとレイフォンのきれいな金髪に少しふれて、立ち上がった
ミシェルが一歩前に出てお辞儀をする
「ミシェル=エルワードと申します。」
「レリーゼ=T=シュナイザー、黒月の頭首だ。」
「お兄様を存じております」
「兄」という言葉に少しだけ耳が動いたレリーゼという名の女狼は眉をひそめて口を開こうとしたが、
「レリーゼ…ストラウス…姉ちゃん!…ずっと前のフードと同じにおいがするにゃ!」
「まだ単語でしか話せないのか、また会えたな、ステイアリーの弟」
姉とつながる人に会えてうれしいのか、喉をゴロゴロと鳴らすモリー
一方マーラとダンゴはまったく同じことを考えていた。
―館が血で染まった先に、この人がいた気がする…―
首を振り、その考えを消そうとするが消えない。
「キュウ?」
ビールも心配そうに二人を見つめる。
「キュウキュウ?(あれがどうかしたのか?)」
「なんでもないよ、ビール」
「そう、なんでもない」
しかしどこかで気がかりになることがあった。
「黒月」それはトイラベルを主とした義賊集団
民を困らせる貴族たちの家を血で濡らし、くだらない戦争をも血で濡らし終わらせた。
民の英雄団、貴族の悪魔、その名はあまりいい評判ではなかった。
「レリーゼ=T=シュナイザー…ねぇ。」
彼女の名もまた、血で濡れているのだった。
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